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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(オ)32号 判決 1948年7月17日

主文

本件上告を棄却する

上告費用は上告人の負担とする

理由

上告論旨第二点は「原判決は上告人の委任する執行吏をして、被上告人の申出あるときは被上告人の医業経営に必要なる限度に於て、被上告人に対し本件病院の使用を許さざるべからざる旨言渡したり。右判断は一応不当の廉なきが如く見えざるに非ずと雖、仔細に之を考慮するに、大戦中より優秀なる執行吏は続々経営事情よりして退職し、現に在職する執行吏は何れも無能他に職を求むること難き老朽の吏員のみにして、而も収入不足の為国庫より補助を受け居るもの比々皆然りとする状態に在ることは、全国を通じて洵に顕著なる事実に属す。然るに叙上病院使用の許否の判断の如きは相当重大なる事項にして、豊富なる社会常識と鋭敏なる観察とを要求せらるるや当然というべく、右の如き執行吏の到底適切妥当なる判断を為すに堪えざるや敢て多言を要せざる所なりとす。上告人の信ずる所に依れば斯る判断は学識経験ある有能なる判事の判断に任ずるを最も適切妥当なる処置なりといわざるを得ず。原判決言渡後其の仮執行の宣言に基づき執行吏の執りたる処置が極めて常規を逸したるものありたる為、上告人は現に執行方法に対する異議の申立を為し居る事実に徴するも、上告人の右所論の不当に非ざることを察知するに足らん。即ち原判決は実験則に背反する不法の判決というべく、執行吏をして本件病院の保管を為さしむるは何等不当に非ざるも、被上告人をして本件病院を使用せしむる許否の判断の如き重要事項は、須らく執行裁判所の判事をして之を為さしむべきものとす。然らば原判決は此の点に於ても破毀すべきものと信ず。」と言うのである。

よつて案ずるに、原判決が被上告人等の申出あるときは、執行吏は医業経営に必要な限度において、被上告人等に対し本件建物の使用を許さなければならないとして、執行吏に医業経営に必要な限度の判断を委ねていることは上告人の言う通りであるが、右判断は唯本件建物の使用の範囲についてのみ為さるべき判断であつて、極めて限定されているので甚しく複雑なものとは言えなく、普通の常識を具備するものにこれを求むるも決して不当ではないのであつて、執行に際して相当の範囲に於て種々の判断を委かされている執行吏にこれを求むることは不当とは言えないものと解するのが相当である。従てこの見地で執行吏に前記判断を委ねた原判決には、上告人の主張するような実験則に背反する不法はないものと言わねばならないから、この点の上告論旨も理由がない、(その他の上告論旨及び判決理由は省略する。)

以上の理由により本件上告は理由がないから、民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条により主文の如く判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 塚崎直義 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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